苫小牧に着いたのはもうすっかり暗くなった6時頃。ガイドブックの後ろの方にある施設一覧でビジネスホテルをさがし電話した。苫小牧の街全体が妙にきれいで整然としている。駅前の通りや周辺の市街地が再開発をしたばかりなのか建物も新しい、選んだホテルもできたばかりのきれいなホテルだった。
チェックインを済まして早速町をうろつく。道路が広いせいか人がまばらで、何となく寂しい感じだ。駅前当たりのしゃれたレストランは興味がないので裏路地に入って食事できそうなところを探す。するとさすが港町、古いアーケードの歓楽街を見つけた。たぶんフィリピンか中国人の女の子らしいのが呼び込みをやっている。さらに薄暗い方へ入っていくとソープランドのネオンがある処に出た。「お客さん、遊んでって」とおっさんに声かけられた。「そうじゃなくて、食事して呑める様な店ない?」「さぁ、あそこは?結構いつもお客はいってるよ。」と指差されたのが、その前にのぞいた、若い人が大騒ぎしている居酒屋だった。店主らしいオヤジがギター持ったまま変な声で「いらっしゃ〜い」と寄ってきたので思わずドア閉めたところだ。「静かなところで魚食べさせてくれる小料理屋みたいな」と又呼び込みオヤジに言うと、しばらく考えて、「着いて来な」と歩き出した。路地の角で「あの先にそんなような店あるよ」とニコリとして指差した。巡り巡って泊まるホテルのすぐ近くだった。行ってみると新規開店したばかりの小料理屋だった。カウンターしかない5人も入れば一杯な店で寿司やみたいな硝子ケースがあって魚が入っていた。同い年ぐらいの店主一人で、客はいなかった。お通しに数の子?がびっしり付いた昆布を出してくれた。「好きなんだこれ」と言ってビールを呑んだ。店主はうれしそうに話しかけてきた。脱サラで始めて、まだ店を開いてひと月しか立っていないらしい。兄が近くの町で別な小料理屋をやってそこで半年修行してきたという。一人旅で海岸線の旅なんだと話をしたら、話に花が咲いた。長万部てカニを買おうかちょっと考えたがやめたという話をしたら「あんなもん買ったらだめ、買わなくて正解。イケスで泳いでる蟹をそのまま冷凍して送るようなこと言ってるけど、客見て、何年も前の冷凍物を送るらしいよ」「やっぱり。」「とにかく街道の土産物屋はねえ、他はシラネェが北海道はだめ。丸ごと観光地だから北海道はね、だましてるよ。結構客から苦情来たりで問題になってんだよ。買うなら朝早く行って市場だよ、明日どっち行くんだよ。俺も明日市場行くから一緒に行こうか?」このあたりでたぶん一時間ぐらい話した頃だろうか、私は日本酒を呑んでかなり出来上がってきていた。「うれしいねぇ、ほんとに!いいねぇ市場行こう」そう言ったのははっきり覚えている。このころからやけに意気投合してきた。それまで私の奨めたビールをちょっとずつ呑んで、合間にいろいろ美味しい肴を出してくれていたが、食べるのももういいかなと思った当たりから店主がグイグイ日本酒飲みだした。「これ、呑んでみてよ」とかいいながらつぎつぎと酒を両方に注ぎさらに呑んだ。二人でカウンターに座っていたのも覚えている。「静内の桜を見ていけ!」と言われたのも覚えている。サラリーマンがつらくて嫌だったという愚痴も言ってたような気もする。あとどんな話をしたか覚えていない。ただ敵もかなり酔っていた。ホテルがすぐ近くだという安心感がそうさせたのか・・・たぶんだが、グラスにあふれさせた日本酒を冷やで10杯は呑んだ。客は結局私だけだった。帰りに金額を言われて「それじゃ悪いよ、これだけは取っといて」と言って、店主が「だめだよ、こんなにもらっちゃあ」とか言っているのを後ろに聞きながら戸を閉めてふらふら帰った。
何時に帰ったのか、どうやって部屋に着いたか等の記憶は全くなく、気がついたら朝。着替えもせずにうつぶせに寝ていた。払った金額は5,000円札一枚だつた。あれじゃ店失敗するな。
朝6時半頃風呂に入ったらもうすっきり。最近の私は全く二日酔いしなくなった。以前なら翌日午前中は覇気がなく、夕方になってから偏頭痛になったりしていた。
車に乗ってかなり走ってから一人車内で「あっ市場」と叫んだ。