伊根町から半島をまわってちょっとだけ兵庫県。そして、鳥取県に入る。
「ギター弾こうか」小池さんが後部座席に移り、構えた。山道を走りながらのギターは弾きにくいといいながら、懐かしのフォークソングを次々と弾いた。二人で大声で歌った。小池さんは学生時代、当時どこの大学にも必ずあった軽音楽部にいたこともあってギターは上手だ。私も仲間とグル−プを組んでいたこともあり、一応弾けるが、小池さんのようにメロディにすぐコードが浮かんでくる訳には行かず、歌詞の上にAmとかFとかのあのコードが書いてないとダメだ。このへんがあるレベルのボーダーラインだと思う。小池さんは自作の曲もあり、25年ぐらい前に同僚だった頃カセットテープに吹き込んだものをもらった。今回の旅の壮行会・食事会を出る5日前に。神田神保町の四川料理店でやった。今回旅を断念した栗本君と私と小池さん、それにサポーターの看護婦のKさんと主婦イラストレータのカヨちゃんが参加。大いに盛り上がり事前に音合わせをしようと称してカラオケ店に行った。「路銀が無くなったら、二人でオヤジユズを駅前でやるんだ」と息巻いた。五つの赤い風船や赤い鳥、岡林や加川、そして拓朗などをひとしきりやった後、「この歌いいよね」と言ったのが「瀬戸の花嫁」。「フォーク、ちゃうじゃん」といい。ふたりで笑った。そして歌った。瀬戸内海ではなく日本海なのだが、情景がだぶってきた。「入り江の向こうで、手をふる人たちに、小さな声でーさよならー言うの〜」。ちょうど入り江が見える。なぜかちょっとウルウルしてきた。私が「この歌唄うと泣いちゃう銀座の調査会社の社長がいるんですよね、娘が嫁に行くのが恐いんだなあ」というと「おれたちは、泣かないけどね。娘いないからね」と小池さんが言った。「そうですよね」と私。でもバックミラーで見ると言いながら小池さんはぼろぼろになって泣いていた。それを見て私もさらに涙が溢れて来た。これはどういう感情の現れなんだろうか?二人とも男の子ばかりで嫁に取られることもないのに・・・。まあそんなことはどうでもいい、考えても結論は出ない。旅に出るとウルウルするのは東北でもそうだった。それからはくねくねと山道を走りって「入り江」が見える度に「入り江の向こうで〜」と大声で唄った。そして大笑いした。
天気は晴天で鳥取の海は暑かった「泳ぎたいなあ」と小池さん。「泳ぎましょう」今年は海パン持って来ていた。
真夏のこんな暑い日で絶好の海水浴日和だと思うのに人がほとんどいない海水浴場に車をとめた。
昼食はちいさなお店が一件しかなかった。地元のスクール水着の女の子が方言で騒ぎながらソフトクリームを食べていた。わずかな風の入る店の入り口でカレーライスを食べた。小池さんのビールが美味しそうだった。きれいな遠浅の海。波も穏やかだった。ほんの数分泳いであがった。勿体無いような気がしたけど、まあオヤジだからしょうがない。粗末な造りのコインシャワーがあったので使っていると、若者のカップルが来た。小池さんは私の順番を待っている。となりに女の子が入った、「ねぇ、もったいないから一緒に入ろう」「・・・・」。パンツを履き替えるのもやっとな狭さである。小池さんはその女の子と男の子が来るところから見ていた。あとで車に乗ってから「なんで、あの男は一緒に入らないんだろうなあ。すっげぇ可愛い子だったよ。もうねえモデルにしたいぐらいだよ、スタイル抜群、きれいな肌、色白で、ほんとだよ」と「ええっホントかなあ、見たかったなぁ」そんな可愛い娘と一緒に入る狭いコインシャワー。想像して「幸せだろうなあ」と二人とも目があらぬ方向になっていた。小池さんが地図に書き込む。「スティックマイヤーばりの美人に遭遇。コインシャワーで一緒、小池コーフン!!!」
「一緒」ってとなりで弛んだ肉体・薄い髪の毛にシャワー浴びて、よろけながらパンツ履き替えてただけなんだけどね。
オヤジ旅はこうして小さな出来事を大袈裟に楽しみながら延々続くのである。これでいいのだ。フンッ。

ギターで熱唱


ビール旨そう


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車内でパンツ干す