2001年8月12日
今日から約1週間夏休みとなるその朝、妻が「家でなにもしないでいると、また頭が痛くなるよ、ゴロゴロしてないでどっかドライブへでも行ってくれば!」と言い残して会社へ出かけた。妻はもう上旬に休みをとってしまいずっと勤務だ。子供達は大学生2人と高校生1人全員男。バイトやそれぞれの仲間と遊んだりで忙しくほとんど家にいない。ぽっかり空いた1週間。
私は数年前から片頭痛に悩まされていた。ひどいときはのたうちまわるぐらい痛かった。特に「何も予定がないと言う状態」が引き金になる感じだ。週末や休日になると頭が痛くなった。これは片頭痛の特徴のひとつらしい。原因は定かでない。そんなこともあって一人旅をすることにした。
そして準備をはじめた。スーパーに行ってTシャツや短パン、サンダルなど買ってきた。そして着替え、地図。自分が持っているカメラ、交換レンズも全部車に積み込んだ。車はレガシーのワゴンタイプなので荷台は広い。キャンプ用のイスやテントも寝袋も積んだ。
地図を見て何処にいこうか、「そうだ岩木山を見に行こう」と決意した。
8月13日未明、2時をまわったころ車に乗り込み、まず関越で新潟方面へ行くことにする。「岩木山」を見に行くために内陸をずっと東北道で行くより、日本海を眺めながら北上しようと思った。関越トンネルを抜けた頃にはうっすらと朝日で周りが明るくなってきた。
新潟港に着く。国道113号を北上する。(ここがのちに日本列島一周のスタート地点となる。)
やがて工場地帯を過ぎると綺麗な海岸線に出た。何度も車を止め眺めてはまた走る。砂浜にイスを出してしばらく波の音を聞いたりもした。のんびり朝寝?もした。
345号にはいり、笹川流れをすぎる。お盆のさなかであるからか日が高くなっても道路はがらがらに空いている。山形県にはいる。海水浴場がずっとつづいている。でも関東近辺のあのごちゃごちゃした海水浴場のイメージとは違い人はまばらである。自然の中に人が遊んでいる感じがする。日本海のそれも東北では海水浴の期間も太平洋側に比べたら短いし、たぶん他県からどっと押し寄せるようなことはないので駐車場は特に造ってないのだ。ときどきタオルを頭に乗せ(首の後ろを焼かないようにしている)麦わら帽子をかぶっているステテコのオヤジがいる。たいがい折り畳みのイスに座ってサングラスをしている。自分の土地なのかちょっとしたスペースを臨時の駐車場にして駐車料金を取っているのだ。でもちょっと海の家と言われる売店がないようなところまで走ると止められるところはいくらでもある。私は海水パンツを持ってきていなかったので泳ぐつもりはないからそういうところで止める必要無い。それとあのオヤジに駐車料金とられるのはなんかイヤなのである。
山形と秋田の県境当たりまで来た時はもうお昼頃になっていた。
奇岩が沢山ある眺めのいいところにきたのでコンビニで買ったおにぎりを食べようと、止められるところを探す。もちろん無料で。このへんかなと思った場所にハンドルをきると例のパイプイスにすわったオヤジがいた。あわててもとにもどり走る。すぐにトンネルでそこを過ぎるともう誰もいない場所で、ちょうどいい駐車スペースがあった。そこに止めて海を眺めながらおにぎりを食べているとき、ふと見ると岩のところにダンボールの切れ端にマジックインキで「1日1500円」の文字。そこへワゴン車が入ってきて止めた。若者が4人、たぶん地元の高校生か大学生ぐらいだ。スペースはもう一台止められるかどうかぐらいである。さっさと磯の方へおりて行く。最後の一人に「ここって有料?」と段ボールの切れ端を指して聞くと、「んー。金なんかえらねーろ」と言った。ああこりゃ山形弁だな。「要らない」に「ろ」がついている。「そうだよね、誰も(渡せる人)いないもんね」「おらー#$%&'#$#$0」・・・たぶん「ここは、誰の土地でもないよ、おれたちはいつも止めているけど、とられたことなんかねエよ、大丈夫だよ」と言って磯のほうへおりて行った。
「ら」と「ろ」がやたらに混ざっている感じの言葉。
おにぎり食べ終わって、さっき見た奇岩の写真をトンネル戻ってとりに行こうとカメラを用意していると、パイプイスをもったむぎわら帽子のこんどは割烹着の女性がトンネルから出てきた。40歳ぐらいだと思う。「あっやっばり有料ですか?」「ええ、もうしわけありません。1500円です。」あのトンネルの向こうにいたオヤジの奥さんなんだろうか。駐車場の番人にしては控えめなものごしでなんかいい感じだ。別に似ているわけではないが、雰囲気が巨匠木村伊兵衛の「秋田おばこ」の写真を思い出した(私が今大好きな写真の一つ、1953年に撮影されたとは思えない引き込まれる写真だ。菅ガサが麦わら帽子だが・・・参照)このひとならまあいいや???と1500円渡した。どう考えてみても私有地とは思えない3台も止めれば一杯になる道路より海側のスペース。道路公団か何かの管理地かも知れない。「あの岩の写真撮りに行きたいんですけど、歩いて行けますかね、結構トンネル長かったよね」とあまり意味ない質問をした。「そったに!&%#$&%$!&%$」・・・「それほど遠くはないし、亀のかたちした岩をよく写真撮りにくる人がいるよ」というようなことを言った。やはり「ら」と「ろ」がはいった、でもやさしさがにじみ出る言葉に聞こえる。(例の写真の「秋田おばこ」もこんな声で言葉で話したのだろうか?今、生きていれば70位だとおもうが)
トンネルを通って出たところのすぐ下の磯のところで先ほどの青年達がバーベキューの用意をしていた。おりて行って海の写真を撮っていると例の若者と目があった、ニコッとしたので、「お金取られちゃったよ」というと「ほんとかよ、そんなの払っちゃダメだよ、なあ」と他の青年に言った。みんな真っ黒に日焼けしていて健康的だ。道路わきにワゴン車を止めて写真を撮っている老夫婦に会う。海側のガードレールから崖の方へちょっと出て三脚を構えている。主にプロが使う大判カメラ4×5だ。見た感じ私の父親ぐらい、たぶん70代半ば、奥さんはもう少し若い。その奥さんが主人と三脚のカメラに日傘さしている。いい光景だ。奥さんらしきひとのなんと穏やかなやさしいまなざし、私がカメラをぶら下げているのを見て「お仲間」と判断したのかニコリと軽い会釈をしてくれた。暫くあっちこっちの写真を撮ってから駐車場に戻って来るとイスだけあって女性がいなかった。車の後ろの草むらに向かって立ちションしていると、若者達のワゴンのよこから突然例の女性が出てきた。ちょっと見られたかも。若者達の車をチェックしていたようだ。「いいトコですよね」「ええ?もう終わり?いい写真撮れました?」「ええまあ。もう秋田県まで近いですよね」「もうすぐですよ、あら、じゃあ悪いからこれだけ返しますよ」と言って1000円を差し出された。「いやいやいいんですよ。それじぁ」といって車を発進した。(ああっなんなんだ俺は?)

新潟港の近くの海


岩だらけの海水浴場


たわしのスタンドバイミー


亀石


!!!!


泳ぐ子供